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解離症をもつ人の中には、心霊現象のような不思議な体験をしたと語る人が少なくありません。

心霊現象というと、オカルト的・非科学的で信じがたいものであると眉をひそめる方もおられるかもしれません。しかし、心の病を考える上では、その人の心が体験した真実を、目で見えないからといって気のせいであると切り捨てることはしないのです。

解離という病理には、一見すると信じがたいような現象の話の中に、重要な症状が隠されていることが多くあります。

今回はそのような患者さんからよく聞かれる現象の例を一部ご紹介します。

 

ただなんとなく見えると感じてしまう感覚

ある患者さんは、子供の頃から自分が背後や斜め後ろから誰かに見られている気配がすると感じることがあったと言います。誰もいない空間であるにもかかわらず、何かに見つめられているような気がしてしまう。その視線に対して怯えていた。気にしないようにしていると感覚は消え、またふとした拍子に視線を感じてしまったり、嫌な感じがすると漠然と感じ取った時に視線を感じる、という人もいます。

また、何か嫌な感じがする、よくない感じがするから近づいてはいけない場所があると感じる人もいます。まるで結界が張られたように、その場所に行くことを心が強く拒絶してしまったり、なんとなく嫌な気がするというボンヤリとした感覚を覚えて、その場所を避けます。それは暗くて黒いモヤで覆われているようだという風に、具体的に表現されることもあります。

また、ある人は自分は霊感があると感じていて、幼い頃から幽霊をよく見ていたと言います。ふと振り返った場所に、直感でこの世のものでないと感じる人がいる、といった体験や、小さな子供がいると思って見ていたのに目を離した瞬間に消えてしまった、というような体験です。顔や表情はハッキリとは見えないのに、なんとなく彼らの感情がわかると感じたり、なんとなく存在していることが分かり、生きている人間ではないと思ってしまうようです。

 

「幽霊」と解離症の意外な関係

上記のような体験は、解離症の症状としてもよく見られると考えられます。

解離とは、自分の体と心が強いストレスによって追い詰められて、その場から逃げることができなくなってしまった場合の緊急的な回避手段です。物理的にその場を離れることができないとき、精神的に「今ここ」に存在している自分から、自分の心を切り離してしまい、「今ここ」にいる自分を傍観する自分として、二次的な存在を作り出してしまいます。二次的な存在としての自分になることで、実際にストレスを受けている自分をあたかも他人事のように観察したり、別の空想の世界に逃げ込むことでストレスを受けて苦しんでいる自分を感じることを回避します。

この時、二次的な傍観者としての自分から、「今ここ」に存在している自分へと心が移らなければなりませんが、「今ここ」に存在する自分としての心を主体的に感じている時に、傍観者としての自分から受ける視線を感じてしまうことがあります。また、傍観者としての自分を主体的に感じる時は、「今ここ」にある自分を見つめる時に、まるで他人のような知らない人を眺めているようだ、映画を見ているようだと語る人もいます。

 

このように、自分ともう一人の自分という、存在が二分されてしまった状態が日常的に続くようになってしまうことで、今自分の存在しているはずの世界が信じられないような気がする感覚や(離人症状)誰かに見られている気配を感じて怖くなる(気配過敏症)といった感覚を体験するようになるのです。

幽霊を見るとか影のような存在がいる気がするといった感覚は、実体的意識性という症状であることが考えられます。実体的意識性とは統合失調症で多く見られると考えられてきましたが、実は解離症をもつ患者さんにも多く見られる症状であることがわかっています。実体的意識性とは、見たり触ったりといった知覚によることなく、その存在がまるで触れることができるように「そこにいる」と感じる感覚です。

解離症における実体的意識性は、その存在が自分を攻撃して来るというような自己関連的な意味づけのあるものではなく、ただそこに存在していると感じるだけであることが多いと言われています。

また、初めて体験する出来事であるはずなのに、昔夢で見たことのような気がするデジャヴや、頭の中に具体的で鮮明なイメージが浮かび上がる幻視、自分の体から魂が抜けだして自分のことを見ている体験をする体外離脱体験を経験することもあります。

このような不思議な体験は、あまりに不思議であることから他の人には話すものではないと考えてしまっていたり、子供の頃から当たり前に体験してきたことなので語るまでもないと感じていたりと、人前で語ることを自分で禁じてしまっていることが少なくありません。そのため、生きづらさや不調を抱えて病院に行っても、解離症であることに気づかれずに別の疾患として扱われてしまうこともあります。こういった症状や体験が、解離症の症状である可能性があると知っておくことは、実は大切なことなのです。

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カテゴリー: 解離症(解離性障害)